OTC薬とは英語の「Over The Counter」の略で市販薬のことである。近年OTC薬の乱用、依存が問題になってきている。今回の学会誌「中毒研究」の特集がこれについてであったので本文から抜粋してまとめた。
OTC薬の特徴
違法薬物や処方薬に比べ、効果は弱く危険性は低いと考えられている。しかし、最大の特徴は「誰でもどこでも手に入る」ことである。OTC薬の乱用が問題になるのは鎮咳薬、感冒薬、鎮痛薬、鎮静・睡眠改善薬、カフェイン製剤などである。これらの多くは複数の依存物質を合有しており、各成分は微量であっても依存性が高くなる。過量内服が続けば依存が速やかに形成される。また、患者の問題意識が低く動機付けが困難であり、入手が簡単なことから依存症の治療は容易でない。
日本で乱用が報告されたOTC薬症例数(上位から順)
ブロン(鎮咳薬)、パブロン(感冒薬)、ウット(鎮静薬)、ナロン/ナロンエース(鎮痛薬)、イブ類(鎮痛薬)、ドリエル(睡眠改善薬)、バファリン(鎮痛薬)、コンダック(感冒薬)、トニン類(鎮咳薬)、セデス(鎮痛薬)、ベンザ(感冒薬)、レスタミン(抗アレルギー薬)、ロキソニン(鎮痛薬)、ルル(感冒薬)
上記のように乱用・依存が多いものとしては鎮咳薬、総合感冒薬、鎮痛薬、鎮静薬・睡眠改善薬、カフェイン製剤などである。(ブロン錠が圧倒的に多い)
OTC薬依存患者の特徴は覚醒剤や大麻に比べて女性の役割が多い。「気分障害」「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」「成人の人格及び行動の障害」の併存例が多い。
(成瀬暢也(2021).OTC薬乱用・依存の現状と対応.中毒研究)
OTC薬の成分
OTC薬は複数の成分を合有していることが多い。OTC薬で問題になる主な成分は以下のとおりである。
成分 | 依存性 | 吸収(時間) | 血中濃度peak (時間) | 半減期(時間) | 分布容積(L/kg) | 蛋白結合率(%) | 中毒量 | 致死量 | |
1 | アセトアミノフェン | 4 | 1~2 | 0.8~1 | 25 | 150mg(成人)、200mg/kg(小児) | >500mg | ||
2 | カフェイン | あり | 0.5~1 | 0.5~2 | 3~6 | 0.61 | 36 | 1g | 5~10g |
3 | クロルフェニラミン | 速やかに吸収 | 2~6 | 14~24 | 5.9~11.7 | 72 | 10mg/kg | ||
4 | エフェドリン | あり | 2.5~7.5 | >2g | |||||
5 | コデイン(表はリン酸コデイン) | あり | 1.5 | 1.9~4 | 3.5 | 7 | 7~14 | ||
6 | デキストロメトルファン | あり | 0.5~1で神経症状 | 2.5 | 3 | 5~6.7 | |||
7 | サリチル酸 | 0.5 | 2~4(中毒域では15~29) | 0.1~0.2 | 90 | >150mg/kg | 500mg/kg | ||
8 | ジフェンヒドラミン | 速やかに吸収 | 1~4 | 2~7 | 4.5 | 75~85 | 1g | ||
9 | ブロモワレリル尿素 | あり | 2.5 | 0.35~0.48 | 6g | 30~50g |
過量内服したときの症状
主な症状や障害 | |
1 | 肝機能障害(重篤な場合72~96時間がpeak) |
2 | 不整脈、頻脈、血圧低下、痙攣、嘔吐 |
3 | 痙攣、抗コリン作用、QT延長症候群 |
4 | 交感神経刺激作用 |
5 | モルヒネ用の作用(縮瞳、昏睡、呼吸停止) |
6 | NMDA受容体遮断(幻覚、陶酔感、乖離など)セロトニン症候群、交感神経刺激作用 |
7 | 好気代謝を阻害 |
8 | 抗ヒスタミン作用、抗コリン作用(傾眠、痙攣、頻脈、散瞳)セロトニン再取り込み阻害(振戦、ミオクローヌス、筋強直、QT延長症候群) |
9 | 意識障害、呼吸抑制、肝障害、呼吸循環障害、中枢神経障害 |
(遠矢希、大谷典生(2021).臨床的特徴.中毒研究)
実際の臨床の印象
実際、ここに書かれている通り、OTC薬の内服は増えてきている。宇佐美らによると10代の薬物乱用が危険ドラッグは2014年の48%から2018年には0%になっているのに対して、OTC薬は0%から41.2%に増加していたようだ(宇佐美貴士、松本俊彦(2020).10代における乱用薬物の変遷と薬物関連精神障害患者の臨床的特徴.精神医学)実際の臨床でも同様の印象である。危険ドラッグが減った代わりに手に入れやすいOTC薬での急性薬物中毒は今後も増えてくるだろうと思われる。
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